【小論文】「ハラール認証」のハラーム性
「ハラール認証」のハラーム性
(1)私が関心を抱く社会・文化現象は、日本で注目が集まりつつある「ハラール(ハラル)」と「ハラール認証(制度)」とそれにまつわる現象である。その理由は、特に企業のイスラーム圏への進出(アウトバウンド)と国内観光業(インバウンド)において興味を持たれているトピックであるからである。ハラール認証のハラーム性と私の政策的提言を論じる。
①各イスラーム関連用語の定義
ハラール(HaLal)は、アラビア語で「ゆるされたこと」という意味である。ゆるされたというのは、イスラーム(教)の神アッラーにゆるされたという意味である。
ハラーム(HaRam)とは、ハラールHaLalの対義語で神に「禁じられたこと」という意味である。カタカナで表記すると似た言葉のように見えるが、意味は全く異なる。それぞれの用語はイスラーム教の概念である。
イスラーム(教)とは、預言者ムハンマドが唯一神アッラーの啓示を受けて創始した一神教(また、アブラハムの宗教)である。一神教は、唯一神を信仰することであり、個人と神との契約を信仰の前提とする宗教のことである。加えてイスラームの場合は、一人ひとりが聖典クルアーン(コーラン)を指針に、自分だけの責任で神と向き合う宗教である。すべてのイスラーム教徒は個々人の知識と信仰にてらして自分だけの責任と判断で行動する事が義務となる。
②「ハラール認証(制度)」について
ハラールとハラール認証とは必ずしも一致しない概念である。
ハラール認証制度とは、財団法人食品産業センターによれば「イスラーム教義にしたがった食品等の規格の管理とその振興を図る制度」であるが、イスラームの教義には、食に関する統一的な基準はなく、決めつけになるようなものは禁止されている。
③「ハラールhaLal認証」のハラームhaRam性
ハラール認証制度自体が、ハラールやイスラーム教義に抵触する可能性がある。つまり「ハラール認証がハラーム」だということである。
イスラームにおいて、他者がハラールのような「指針」「基準」等を作ることはトラブルの原因になり得るため、ハラール認証制度は日本人のハラール理解を混乱させている。実際新聞では
「イスラム向け食事、認証乱立で混乱(京都新聞)」
「団体乱立、混乱するハラル認証(東京新聞)」
などのタイトルが並び、ハラール対応を進める飲食業や企業にとって何を信じて取り組めばいいか困惑している。実際、コンサルタントの私の元にもそういった相談がいくつかあった。
認証そのものとそれを作る団体が乱立することで、本来の意味のハラールとの不一致が起こっている。ハラールについて「ゆるす」のは、認証団体ではなく神アッラーのみであるため、私は以前からハラール認証制度に関して疑問をもっていたが、本格的に問題が起こってきていると危惧している。「これを放置すれば、国際的な紛争になりかねない」と日本ムスリム協会の徳増理事も上記東京新聞の記事で語っていた。
(2)政策的提言
①行政からの介入
「ハラール認証」という言葉が広がったのは、認証を企業が導入すると「アラブ・イスラーム圏ビジネスで成功する」という触れ込みや、「飲食業にとって売り上げにつながる」などの情報が飛び交ったことが一因である。実際は、認証の取得では売り上げにはつながらない。例えば、アラブ諸国ではハラール認証自体に認知度が低い。アジア・アフリカ言語文化研究所の大川真由子氏によるとアラブ社会ではハラール「認証」の存在自体を知らないという調査結果が出ている。また「ハラール認証があるとイスラーム圏で自動的に売れるわけではない」というのは、ジェトロ農林水産・食品部村上雄哉氏の話である。私は不当表示防止法違反(優良誤認)を招きかねないと考える。したがって消費者庁は認証を推進する団体(認証団体)に対して、早く介入すべきだと考える。
②企業のハラールに関する本質的理解と方向転換
ハラール認証団体は日本に複数ある。そのような団体が日本各地でセミナーや講演を開催しているため、残念ながら誤ったハラール理解が広まってしまった。飲食店がハラール対応をしたいのであれば、使用材料をきちんと伝えることだ。その食事を食べるか、食べないかは、個々人の知識と信仰にてらして自分だけの責任と判断により選択できるからである。また、外国人ムスリムは日本語が読めない、子供であれば文字が読めないという場合も考えられる。その場合は、多言語で使用材料を説明することやピクトグラム(絵文字)を使って内容を伝えることが有効である。
③ムスリムの教育
認証ビジネスがここまで日本社会へ影響を与えてしまったのは、ハラール認証を一部のムスリムが受け入れてしまったからと推察する。私にはモスクで事務局を担当している友人がいるが、根本の原因はムスリム(イスラーム教徒)の教育であると嘆いている。上記で紹介した認証団体もムスリムが運営している場合が多い。昨年8月に慶応大学で「全国ムスリムミーティング」という会議が開催された。会議では行き過ぎた認証活動について明確な反対を参加者が意見共有されたという。そのためムスリム自身が、日本に在住するムスリムへハラールを教育する必要があると、私は考える。
全体のまとめ
私が研究するアラブ・ビジネスにおいて、ハラールが密接に結びついていると言える。かつては石油産業が中心だった日本企業のアラブ世界への進出は、食品や日常生活品に渡っている。日本の政財官がアラブ・イスラーム・ハラールに関して正しく理解し、アラブ・ビジネスへの基盤が作れるように動いてもらいたいと思う。私は2013年12月からセミナーを開催して、ハラールやイスラームについて一般向けに分かりやすく解説している。またフェイスブック、ツイッター、ブログ、メルマガなどSNSを使い情報を発信したり、カルチャーセンターの講師としてハラールについての解説もしている。このような地道な活動でも続けていくことが大事だと考える。
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