中東・北アフリカ地域のビジネス法制の問題点について、法文化や慣習の観点から論じる。

再掲

『中東・北アフリカ地域のビジネス法制の問題点について、法文化や慣習の観点から論じる。』


  1. 中東・北アフリカ地域の特殊性
  2. 中東・北アフリカのビジネス法制についてとその問題点
  3. 法文化・慣習とビジネス法務
  4. まとめ

1. 中東・北アフリカ地域の特殊性

⑴地理的範囲

 中東・北アフリカ地域(以下「MENA地域」と呼ぶ)は、北アフリカのモロッコ以東から中東のイランまで、そしてトルコとスーダン(南スーダンを除く)を含む地域を指す。民族的には、アラブ人、ペルシャ人、トルコ人等から構成される。

⑵MENA地域の法制度

 MENA地域の法制度やその近代化を考えるにあたり、イスラーム法(シャリーア)は重要な概念になる。法制度は、7世紀以降のイスラーム教の広まりとともに確立される。その実効性の有無は、各時代によって異なるものの、シャリーアはその支配層の正統性を示すものとして長期に渡って適用・利用されてきた。またシャリーアは、長い歴史において、その基本的な問題の多くが、イスラーム史の初期において、その解釈が確立した。ちなみに、シャリーアの適用・運用の是非が問題となったのは、世俗法および人権との関係から問題視されることが多くなった近代以降のことである。

⑶法制度とその歴史的変遷

 シャリーア適用の変遷は、長く蓄積されてきたイスラーム法廷文書を読み解くことで明らかにすることができる。シャリーアの支配に基づく、社会の諸問題および紛争解決の過程を明らかにすることができる。当該地域におけるシャリーアの適用は、オスマン帝国の衰退による西欧化を受けて、適用範囲が狭められる。法制度の西欧化と西欧による植民地化が少なからず影響を受けている。植民地化の広がりに伴い、MENA地域では、世俗法である成文法が整備され、シャリーアの適用は狭められる。近代に入り、イスラーム復興運動が起こり、この流れは、カリフ制などイスラーム国家の再興やシャリーアの厳格な適用に影響を与える。具体的には、サウジアラビアの誕生やパキスタンの独立、シャリーアに裏付けられた経済活動の進展(イスラーム経済学の発展も)などがある。

⑷世俗法とシャリーア(近現代史)

 MENA地域は、イスラーム教徒(ムスリム)が多く暮らす地域であることから、法的問題において、聖典クルアーン(コーラン)に基づくシャリーアが適用される場合がしばしば見られる。当該地域の法制度の特徴として、世俗法とクルアーンに基づくシャリーアが適用される状況が多い。また一国の法制度および法体系におけるシャリーアの位置付けは、MENA地域においても異なっている。シャリーアを立法における主たる法源とする国もあれば、限られた分野においてのみ、その適用を認める国もある。その国が経験した近代化の歴史、世俗法の導入過程によって、シャリーアの適用範囲も様々である。

⑸ シャリーアと当該地域の慣習

 シャリーアとは、アラビア語で「水場に至る道」という意味であり、聖典クルアーンでは、人間が行う正しい道という意味で表現されている。また、イスラーム共同体の構成員であるムスリムが守るべき行動規範で、その行動規範は、イスラームの預言者ムハンマドが神(アッラーフ)から受けた啓示とムハンマドの行動から生まれた。シャリーアは成文法ではないが、法共同体においてムスリムの行動を実効的に規定している。加えて、実定法ではなく、啓示法である。その意味では、自然法に近く、いつの時代にも成立する時間を超えた法とも言える。

 シャリーアは、古代哲学や古代思想の影響を受けている点で、ヨーロッパ近代法の基盤と同じ流れを汲んでいる。ムスリムの信仰行為などの宗教的規定に加えて、社会生活、経済、国家を規定する。これは近年日本でも注目されてきた用語である「ハラール」の影響より容易に理解可能である。これらシャリーアの適用は、広範囲に及ぶが、実際に適用されるかは別問題である。またその点は、裁量の余地が多いとも言えるし、曖昧な点があるとも言える。

 シャリーアの運用において、法源とは、イスラーム教スンナ派では、一般的に第一次法源と第二次法源に分けられる。第一次法源には、クルアーン(コーラン)、スンナ、イジュマー、キヤースがあり、クルアーンとスンナがより上位の法源である。第二次法源には、イジュティハード、ウルフ(慣習)、国家による諸法令がある。こうして分類されたシャリーアの法源については、法解釈において、必ずしも固定的な見解が得られていない。少なくとも、クルアーンとスンナは、シャリーアにおける主たる法源であることについては、法学者の合意が形成される。

 シャリーアに加えて、その地域の慣習に基づいて制定された法律もある。つまり多元的法制度を有する。各国の法制度を検討することは、その背景にある法文化や法慣習を理解する上でも重要である。

⑹裁判制度

 紛争案件は、普通裁判所またはシャリーア裁判所によって解決されるが、裁判外の紛争処理機関も存在し、仲裁制度も存在する。MENA地域における法律・司法制度を考察する上でのポイントとしては、シャリーアをどのように扱っているかを検討する必要がある。例えば、トルコは近代史の中で政教分離によりシャリーアを「法」として認めていないし、サウジアラビアの場合は、クルアーンとスンナが憲法と定めれている。

2 中東・北アフリカのビジネス法制についてとその問題点

⑴近代法導入とビジネス

 MENA地域については、一般的な傾向として、会社法、商法といった商事関連法は比較的早い時期に整備された。しかし、民法、刑法、投資法、労働法については近年になり制定されたケースが多い。一方で、破産法、倒産法、手続法が設定されない国や地域(特に、湾岸アラブ地域)も散見される。

 金融法制と法的問題に関して、銀行法、保険会社法、金融会社法、資本主義法など法律は、比較的に整備されている。しかし、金融商品取引法や資産流動法といった横断的な法体系への対応は、十分ではない。

 日本企業などが進出する際の法的問題として、考慮すべきは外国資本参入状況である。実際、外国資本参入の障壁は依然として大きい。近年注目されるフリーゾーン法の制定では、湾岸アラブ地域では、金融経済特区のなかで、外国金融機関の自由な活動を認める形をとっている場合が多い。

⑵主要な各国法制度について

アラブ首長国連邦(UAE)

 7つの首長国からなる連邦国家であり、連邦憲法は各首長国の独立法を広く認めている。外交、通貨は連邦が管轄し、司法、財務は各首長国が管轄している。民法は、連邦法で正式には「民事取引法」と呼ばれる。利息(リバー)は禁止されている。法の適用順序は「制定法、シャリーア、慣習」である。

 商法(商事取引法)は、連邦法で管轄されている。金融機関からの融資といった商事取引については、利息は認められる。会社法では、現地会社の設立に関して、UAEで設立される会社の外国資本比率は49%以下でなければならない。労働法(労働関連規制連邦法)で、労働組合の結成は認められていない。

サウジアラビア(KSA)

 憲法は、前述のとおり、クルアーンとスンナであると定められている。現実には「統治基本法」という制定法が憲法と見なされている。シャリーアは、国家の最高法規であり、かつ裁判規範として運営されている。制定法は、シャリーアに劣後する。国王は、行政機関の長であり、首相を兼任し、立法権を有する。

 商法は、体系的に編成された成分法はない。会社法は、会社設立、会社の組織形態等について、規定していて、8種類の会社形態が認められている。2000年に全面的な改正が行われた投資法では、外国投資に対する許認可について新しく設立されたSAGIA(サウジアラビア総合投資院)を通じて行われる。また許可対象として認めないネガティヴ・リストを定めた。具体的には、全体地域として、石油関連の一部、治安、特にマッカ(メッカ)とマディーナ(メディナ)では不動産投資、不動産仲介業、水産業、看護師などによるサービスなどに対して許可が認められていない。

 

他アラブ諸国など

 バーレーン(バハレーン)では、法体制は、英国コモンロー、シャリーア、規制・慣習に基づいている。また商事代理店法では、少なくとも51%がバーレーン人所有である必要がある。

 エジプト外資法(投資奨励保証法)では、現地法人を設立する場合、外国投資案件の主務官庁である投資・フリーゾーン庁の企業局に対して設立を申請し、承認されると、外資法の規定が会社法に優先して適用される。

⑶MENA地域のビジネス環境

 ビジネス環境とは、ビジネスに影響を与える、主に経済的・法的要因のことである。良好なビジネス環境であるためには、規制効率と起業家の法的保護が不可欠である。

 世界銀行と国際金融公社が発行する2017年度版『Doing Business』で、中東・北アフリカではUAEが総合順位で26位で域内で最も高く、トルコは69位。ちなみに日本は34位である。

⑷当該地域の経済構造

産油国と非産油国という視点

 MENA地域の産油国では、国際金融危機による油価低下を受けて、2009年に産油国経済は大きく減速した。その後回復基調になったが、長引く原油価格は大きなリスク要因であり、2015年は大幅なマイナス成長になった。湾岸諸国は、当該地域経済の主たる牽引役となっている。これらの諸国は世界的な石油・ガス生産国であり、石油・ガス輸出国。その一つの共通性は後述する王制であること。産油国は、石油収入からの蓄積が国際経済の変動に対して一定の緩衝材として機能している。しかし、石油産業への依存度が高い分、価格変動に対するリスクを受けやすい傾向にある。一方非産油国は、経済基盤が脆弱で、国際経済からのマイナス要因を受けやすい。

共和制と王政という視点

 共和制を敷いている国は、軍が国家権力を掌握している場合が多い。軍産複合体の経済構造の下、利権政治の継続による失政、腐敗が拡大している。エジプト、シリア、リビア、イエメンなどの国々では、「アラブの春」と呼ばれる政治運動の一因になった。

 一方、王制を敷く国々は、産油国である場合が多く、首長が各部族の利害調整を行い、主な収入源である石油の売り上げをいかに国民に分配するかを重視している。しかし、結果として産業構造の硬直化、若年層の失業などの問題に直面している。また、石油産業への依存度を引き下げることは、各国の政策課題であり、それに基づいた産業の多角化が求められている。そのためには当該地域のビジネス環境を深く知る必要があり、市場構造や経済状況、法制度を十分に知る必要が有る。

⑸主な国のビジネス環境について

サウジアラビア(KSA)

 サウジアラビアでビジネスを行う場合、サウジアラビアを地域拠点とする必要がある。前述のSAGIAの新ルールではワンストップショップ・サービスを提供している。

 外国資本規制については、原則100%での現地法人設立が可能になった。ただし、いくつかの業種については、外資比率・最低資本法の規制が設けられている。例えば、銀行業は、外資比率が最大60%、保険会社は最大25%までとなっている。政府は、近年、外国企業に対する、サウジアラビア人の雇用比率引き上げ圧力を強化している。新規雇用の創出をもたらす付加価値の高い事業を提供できる外国企業の進出を望んでいる。他のMENA地域諸国に比べて、進出のハードルが高い。

アラブ首長国連邦(UAE)

・会社法は、現地会社の設立に関して、UAEで設立される会社の外国資本比率は50%以下でなければならない、と定められている。労働法に関しては、労働組合の結成は認められず、ストライキおよびロックアウトは禁止されている。

・商業代理店法では、外国企業がUAEにて商業販売を行う場合、現地代理店を選定し、所轄官庁に登録を行わなければならない。その際には、選定される代理店はUAE国民またはその国民が100%所有する会社でなければならない。法制の問題点として、一度代理店契約を行うと、契約終了が困難であるということである。

・金融フリーゾーンについては、金融フリーゾーン法(連邦法)に基づき、ドバイ国際金融サービスセンター(DIFC)が2004年に設立された。ドバイ国際金融サービス(DFSA)庁がドバイ国際金融センターを中央銀行がその他の金融機関に対して、規制・監督権限に対しては、規制権限はサービス(DFSA)庁のみが持つ。

・UAEは、サウジアラビアと並ぶ、GCC(湾岸諸国)有数の保険市場を有する。保険業に対する規制については、保険法に基づいて行われるが、DIFC内では、金融フリーゾーン法によるDFSAの規制が適用される。近年、規制に従わない保険会社に対して、保険業者の登録取り消しを含む、厳しい行政処分がとられている。

・外国企業が現地法人の株式の100%を保有することが可能なのは、DIFCおよびジャバル・アリ・フリーゾーン等のフリーゾーンに限れられている。

破産法、会社更正法といった投資家保護・清算に関する法制度の整備は依然として遅れている。

連邦全体では、所得税・法人税が課されない等、税制面での優遇措置が多い。一方、首長国ごとに法人税を課する場合も多い。

・知的所有権について、保護の面より、周辺諸国に比べてより積極的である。

事業形態では、オンショア企業とオフショア企業といった形態があるが、長期的にはオンショア企業の方が有利となる可能性もある。

・商業代理店法改正により、一度締結した場合、解除することは困難であり、代理店の合意が得られず、契約を解除する場合には、多額の保証金を支払わなければならない。

・UAE国籍の労働者については、社会保障制度が整備されていて、フリーゾーンにおいても適用される。これは、雇用者と労働者が費用を負担する制度である。

・2003年より、ドバイ首長国は、企業に対する現地人雇用強化策(エミレータイゼイーション)

を開始する。内容は、従業員50人以上の場合、銀行は全体の4%、保険会社は5%、貿易会社は2%を現地から雇用する義務がある。

⑹当該地域のビジネス機会

自国民雇用促進政策

 サウジアラビアとUAEのドバイ首長国には、自国民雇用促進政策がある。一定比率以上の現地人雇用を外国企業に義務づける。こうした措置を義務化する国は、比較的に所得の高い産油国に多く見られ、また若年層の失業問題が社会問題化している国に見られる。政府は、自国民の若年労働力を吸収するような外国企業の進出を望んでおり、この考え方に合致した行動が付加価値の高い企業進出とみなされる。

人口構造と所得水準の上昇

 当該地域は、石油ブーム以降、急速な成長を遂げた産油国では、人口増加に伴い、ニーズも多様化している。

・社会インフラニーズの拡大が予測されて、各国政府もインフラ整備を重点分野として積極的に推し進めている。例:住宅建設、電力、ICT、公共交通機関、ゴミ処理システム(環境分野など)

・所得水準の上昇に伴い、教育水準向上への関心も高まる。例:教育サービス、欧米系の大学による進出、人材育成・人材研修(技術者養成のための専門学校)

・社会保障制度、医療制度への関心の高まり。例:医療サービス、医療機器、製薬業、保険業など

自然環境による要因

MENA地域の大部分は、乾燥地であり、砂漠化も深刻である。こうした課題に対応した産業・技術への高まり。

・人口増加に伴う水不足の深刻化から、水ビジネスに対するニーズが急速に高まっている。例:淡水化技術、造水技術、水道技術。特に高い技術力を持つ日本企業による、水関連ビジネスの事業化に対する期待は大きい。

・食料自給率の引き上げと付加価値のある農水産物・加工品の輸出に対応したビジネスのニーズがある。例:野菜、果物、花器類、養殖漁業。農業技術の移転に伴うアグリビジネスに対するニーズがある。

中東産油国の事情

 湾岸諸国は、アフリカ・ヨーロッパに地理的に近く、ビジネス戦略上重要な拠点である。また税制上の優遇措置も備えている。UAEのアブダビ、サウジアラビアのジェッダでは、国家主導の大規模プロジェクトがある。

3.法文化・慣習とビジネス法務

イスラーム法(シャリーア)とビジネス法務の関連性

 イスラーム圏の多くの国では、シャリーアを立法における主たる法源としている。そして、シャリーアとビジネスの関係性で言えば、以下の点を指摘できる。例えば、リバーの禁止、不確実性を伴う取引の禁止、将来の権利に関する放棄など。

具体的な事例

・収益に利子が含まれていた場合、イスラーム法に反して、取引が無効になる可能性がある

・先物取引の場合、不確実性の禁止に相当し、取引ができない可能性がある

・オプション取引の場合、将来の権利に関する権利放棄の禁止に相当し、取引ができない可能性がある

・将来の財産に対する担保設定が禁止されているので、対象となる財産が不確定である場合、契約が無効になる可能性がある。

ビジネス紛争処理とシャリーア

 シャリーアという独特な法体系ゆえに、裁判官には相当な裁量が与えられている。裁判官は世俗法に精通した法曹であるとは限らず、その場合、法判断はシャリーアに基づいて行われる。消滅時効については、シャリーアに基づき、権利は時間の経過によっては消滅しない。立法過程において、競争法をシャリーアの解釈によって導入しようとする試みが近年ある。今後シャリーアに基づいて競争法が判断される場合もありうる。

経済化するイスラームと「ハラール」

 日本のような非イスラーム国である国でも、ムスリム観光ビジネスが盛んになってきている。このようなツアーは「ハラール・ツアー」などと呼ばれる。「ハラール」とは、イスラームで「許された」という意味である。

 近年マレーシアを中心に認証制度が発足され、東南アジアをはじめ非イスラーム地域にも拡散した「認証」概念をきっかけに、ハラールという言葉が認知されつつある。

 国内外のムスリム従業員が勤務する労働環境では、「社内食堂で豚肉やアルコールを提供してはならない」「ムスリムのために社内に巡礼場所を提供しなくてはならない」など「神経質」に対応する企業も増えてきた。しかし、実際は非ムスリム従業員と同じような労働環境で事足りる場合が多く、いわゆる「ハラール・ビジネス」と呼ばれる過剰なビジネスチャンスへの期待によって、誤解されて伝わっている場合が見受けられる。実際は、ムスリム従業員への宗教的な配慮で事足りる場合が多い。

⑸従業員への「宗教的配慮」

 労務、現地労働法において考慮すべき問題として、前述の自国民雇用促進政策、労働組合禁止の他にラマダーン月の就業時間の短縮とハッジ月休暇がある。ラマダーン月とはイスラーム暦(ヒジュラ暦)で9番目の月のことである。ムスリムは、日の出から日没まで飲食を口にしない一ヶ月を過ごす。ラマダーン月には、サウジアラビアとUAEの労働法では、勤務時間が短縮することが明記されている。またハッジとは、イスラームの聖地マッカ(メッカ)を巡礼することである。これは、ムスリム個々人が好きな時期に巡礼するウムラとは意味を分けて使用していることに注意をしたい。ハッジの時期には、通常の休暇とは別に巡礼休暇が取得できることが明記されている。その点を考慮し、就業規則を規定する必要がある。

4.まとめ

 日本では、二つの世界大戦後、政治と宗教を分けて考えることをやってきた。経済と宗教が分離していることも同義である。宗教がビジネスに影響する、または法制度に影響することが想像しにくい。そのため、一般的な日本人にとって、イスラームで宗教が経済、政治、法律、社会、文化など多岐にわたって影響することが理解できないことは当然のことである。またこのような無理解、誤解が後半で述べた「ハラール」つまりイスラームでいう「許容」についてビジネス利用する企業が助長した要因になっていることも事実である。

 2020年に東京で開催される東京オリンピックや観光立国を謳う日本の観光ビジネスで、ムスリム観光客が増加している。また将来の労働人口が激減することの代替案として、インドネシアなどイスラームを進行する医療従事者の育成・受け入れが国策として日本国中の医療機関に広がっているのは日々のニュースより知ることができる。新しいビジネスの拠点として、ドバイを中心としたMENA地域に関心があつまり、海外進出としてイスラーム商業圏を選択する中小企業が増加している事実もある。

 西欧法を継受してきた日本にとって、西欧法的な法的思考がベースになっているためイスラーム法の思想は理解しづらい。しかしながら、日本企業のASEAN・インドの次の海外進出拠点として、MENA地域は注目されている。イスラームに基づいた法文化、法慣習を基礎情報として、中東への進出の際は重要になってくる。

 中小企業は日本国内のマーケット縮小により、事業規模問わず海外進出に積極的になってきている。日本企業の海外ビジネス展開がより発展するためには、現地法制度や起因する法文化や慣習の理解は必須である。

参考文献:

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奥田 敦著,2005,『イスラームの人権―法における神と人』,慶應義塾大学出版会

奥田 敦-中田 考 著,2011,『イスラームの豊かさを考える』丸善プラネット

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大塚 和夫著,2002岩波イスラーム辞典岩波書店

佐藤 次高監修-日本イスラム協会,2002, 『新イスラム事典』,平凡社

片倉 もとこ, 後藤 明, 中村 光男, 加賀谷 寛, 内藤 正典編集『イスラーム世界事典』明石書店

サラ クレシ好美著-奥田敦監修,2016,『ハラールとハラール認証‐ムスリマの視点から実情と課題を語る‐』慶応義塾大学

以上。

岩口昇龍アラブ・ビジネスコンサルタントのOwnd

「アラブでお仕事を成功させるコンサルタント」岩口昇龍 セミナーと講演会など 中東ビジネス、アラブ・イスラーム文化、イスラームにおける許容(ハラール/ハラル)など よみうりカルチャー川越など アラブ文化・ビジネス英会話・アラビア語講師 お仕事の依頼は、r.iwaguchi@gmail.comまで!

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