「ハラール認証」とは?~ハラール・ビジネスの実態と問題点を知る~ 「ムスリム対応」について考える
【第2回「ハラール認証」とは何者か?~ハラール・ビジネスの実態と問題点を知る~ 「ムスリム対応」について考える】
http://archives.mag2.com/0001651265/
http://ameblo.jp/a-cstokyo/entry-12121046309.html
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「ムスリム対応」について考える ~「ハラール」と「ハラール認証」との間のミゾ~(全3回)
「アラブでお仕事を成功させるコンサルタント」岩口昇龍(龍児)でございます。
今回も引き続き我々のハラール勉強会(「よりよいイスラーム理解を目指す専門家有志の会」)メンバーで
弁護士の小野田充宏さんに寄稿して頂いたものを全3回に分けて配信いたします。今回はその第2回です。
法曹の立場からハラール、ハラーム、ハラール認証についてご意見をいただきました。
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来年2016年1月30日に池袋のアラブレストラン「月の砂漠」で、
「アラブ料理を食べながらハラールについて語る会~ハラールについてのパネルディスカッション~」という
https://www.facebook.com/events/519406204900312/
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「ムスリム対応」について考える
~「ハラール」と「ハラール認証」との間のミゾ~
第2回 「ハラール認証」とは何者か?
~ハラール・ビジネスの実態と問題点を知る~
第1回では,ハラール認証はハラーム(禁止事項)である,という考え方がある一方で,ハラール認証は現に存在し,それを求めているムスリムも存在すること,「ハラール認証」といわれるものの中には,国家機関等によってなされている「公的なハラール認証」制度というべきものと,民間の認証団体が主体として行っている「民間ハラール認証」というべきものがあることまでお話しました。
今回は,これらの「ハラール認証」や,これを取り巻く「ハラール・ビジネス(ハラール業界)」の実態と問題点について概観してみます。
■政府等による「公的なハラール認証」制度
まず「公的なハラール認証」制度についてですが,
例えば,イスラーム教を国教とするマレーシアでは,国策として政府認定機関による厳格なハラール認証が行われています。
これは,目の前に出された料理の素材やその処理方法等についての判断は個々のムスリム消費者には難しいため,イスラームや食品科学に精通する専門家を擁する認証主体が一定の基準によって各食品等についてハラールであるとの認証を行い,これによってムスリム消費者をノン・ハラール食品等から守ろうという趣旨の制度である,などと説明されています。ムスリム(特に,この認証が発達した国のムスリム)にも,この認証があれば安心してその食材を摂取できる,という方々が少なくないのも確かなようです。
しかし,このような「公的なハラール認証」制度には,自国産業の保護・育成といった国策や覇権争いといった側面があることにも注目しておくべきでしょう。「国際標準を制する者が世界市場を制する」などといわれますが,自国のハラール認証基準をグローバル・スタンダードとすることによって,自国の産業を保護・育成し,外資を呼び込んで雇用を創出し,自国産品の輸出拡大を図る,といった制度でもあるのです。
そのため,イスラーム圏に工場を建てるとか,
自社商品を輸出しようとする場合に,どの国・地域の「公的なハラール認証」を取るかが大きな問題となることがあります。少なくとも現時点において「ハラール認証の国際統一規格」のようなものは存在せず,ある国・地域の「公的なハラール認証」をとったとしても,それが他国において認められるかは別問題なのです。むしろ,自国のハラール認証基準をグローバル・スタンダードにしようとしている国であれば,自国の認証にこだわるでしょう。単に「ムスリム消費者を守る」というだけの制度ではないということはよく理解しておくべきです。
また,このような制度の常として,運用に恣意的な場合があるとか,(ムスリム)消費者は守られているのか(制度の悪用等があっても,制度運営者は責任を取らず,消費者に十分な情報公開もされていないのではないか等)とか,自国産業の利益になっているのか(「公的なハラール認証」の取得者にはノンムスリム企業が多く,地元の小規模なムスリム企業の利益が害されているのではないか)等の指摘や批判もある,ということも一応心に留めておきましょう。
ここで確認しておきたいのは,この「公的なハラール認証」は,必ずしも必須の輸出条件や商品を市場に流通させるための条件とされているわけではない,ということです。認証を得ていないのに認証を得たかのような虚偽の表示をするなどすれば罰せられることはありますが,認証を得ていない商品として売買し,流通させることは多くの場合は可能です。
また,「ハラール認証」がなくとも,ハラールな食品(と個々のムスリムが判断するもの)はいくらでもあります。先にみた「ハラール」の定義やその判断方法からすれば当たり前すぎるほど当たり前のことですが,これらの点は「ハラール認証」との付き合い方を考える上で重要ですので,常に頭に置いておきたいところです。
■民間の認証団体による「民間ハラール認証」
一方,ネットで検索すればすぐわかりますが,日本でも実に多くの民間団体(宗教団体を含みます。)が「ハラール認証」を行なっています。
中には,「公的なハラール認証」制度によって,その「認証団体であるとの認証」を受けた上で「ハラール認証」を行っている団体もありますが,多くの団体は独自に,独自の基準によって,独自の「ハラール認証」を行っています。
クルアーンには,
ハラールの「認証」や「認証ルール」などといったものは全く書かれていない(かえって,先にみたとおり,ハラール認証が禁忌とされているように読めます。)
ため,当然のことながら「唯一の正しいハラール認証のルール」といったものがあるわけではありませんから,それぞれの団体によって認証の内容も手続も費用も異なるのは必然でしょう。「日本の現状に合わせた(いわば緩い)ハラール基準・規格」を前面に打ち出す団体,「(お酒は置いていても)食べ物だけはハラールですよ」といった内容の認証を行っている団体,比較的低額で認証を行う宗教団体からボッタクリともいえるような高額の料金を取る団体等,実にさまざまです。
これらの「民間ハラール認証」の主体(宗教団体を含む,民間の認証団体)の成り立ちもまたさまざまのようですが,ムスリムと日本人のノンムスリムが組んで,独自の「ハラール認証」を行っていることが少なくないようです(中には,ムスリムではない方が認証を行なっている例もあるようです。)。
こうした「民間ハラール認証」の売り込みは,「認証を得ればイスラーム圏に販路を拡大できますよ」「認証を取得した飲食店にはムスリム観光客が集まりますよ」などといってなされています。中には,「ムスリムに受け入れてもらうためには認証が必須」などと,明らかに事実に反する売り込み文句が使われている場合もあるようです。実際,民間認証団体のホームページを見ていると,あたかも「ハラール認証」を取得することは「ムスリム対応」の当然の前提といったスタイルのものが多いことに気づきます。いくつか注意点を確認しておきましょう。
まず,民間団体が独自の「ハラール認証」を行ったとして,これをムスリム(ムスリムマーケット)が信用してくれる保証はないということです。
食品や工業製品には名の通った国際的な規格がありますが,これが一定の信用を得られるのは,基準・規格が公開され,かつ,それを制定したり,規格適合性を判断・認証する主体やその過程もまた明確であり,これらのいずれもが信用に値すると評価されているからでしょう。
「公的なハラール認証」については,基準や認証主体が明確であるがゆえに一定の信用を得られる見込みも立ちそうですが,
わが国の「民間ハラール認証」はどうでしょうか。
全てとはいいませんが,よくわからぬ誰かが,独自の基準にしたがって「これはハラールであると認証します」といったからといって,これをムスリムが信用するとは限らないということは至極当然のことのように思われます。
特に,認証基準がホームページ等で公開されていなければ,ムスリムは何を根拠にその認証を信用したらいいのか,その手がかりすら与えられませんし,恣意的な運用(カネさえ払えば認証を乱発するなど)も可能となり,信用という観点からは致命的な問題だといえます
(実際に数ある認証団体のホームページを見てみると,クルアーンではハラール認証がハラームとされているように読める記述があることとの関係を含め,ハラール認証の必要性等についてしっかりとした根拠を示した記載がなされていることは少なく,また,認証基準が公開されていないことも多いことに気付くでしょう。)。
認証を取得すればムスリム観光客が集まると売り込まれて,費用をかけて「ハラール認証」を取得したのに,実際にはムスリムは誰もそんなわけのわからぬ認証を信用してくれなかった,というのでは,詐欺被害にあったのも同然でしょう。
また,先にみたように,「ムスリムに受け入れてもらうためには認証が必須」などという売り込み文句が使われている場合もあるようです。
ここまでお読みいただいた方にはもうおわかりだと思いますが,「ハラール認証」を得ていないということと,その食品が「ハラール」ではない(ハラームである)ということは全く違います。「ハラール認証」を得ていなくとも「ハラール」である(と個々のムスリムが判断するもの)はいくらでもあります。さらに,「ハラール認証はハラームである」とさえ考えているムスリムも存在します。しかも,「民間ハラール認証」がムスリムに信用されるという保証もありません。
そうであれば,「ムスリムに受け入れてもらうためには認証が必須」などという売り込みはもはや詐欺といってもいいという批判があるのも十分に納得できるところです。
さらには,次のようなトラブルも次々に起こっているようです。
認証団体によって認証の内容も手続も費用もさまざまであることは先に触れましたが,団体によっては,「この飲食店は,食べ物だけはハラールですよ」といった認証を発行しています。要するに,ハラームであるお酒は置いてある,ということでしょう。
これに対して,ムスリムの中には,「なぜお酒を置いているのに,ハラール認証を掲げているんだ!」などと抗議する方もいるというのです(もちろん,自分さえ口にしなければ,隣席の人が飲酒をしていても問題はないというムスリムのほうが多いと思われます。)。
また,ムスリム旅行者による「認証がある店に入ったが,ハラールでなかった。」との意見がネット上で拡散していたり,認証取得店と来店客であるムスリムがハラール性をめぐってトラブルになったといった事例も生じているようです。
こういった一部のムスリムの言動に対する評価は人それぞれでしょうが,先にみたとおり,ムスリムのハラールは一つではないのですから,万人に通用する「ハラール認証」などというものは幻想に過ぎず,このようなトラブルの発生は「ハラール認証」に伴う当然のリスクといえるかもしれません。
しかし,ムスリムを歓迎するつもりで「ハラール認証」を取得した飲食店としてみれば,なんでこんな目に合わなければいけないのかという思いを抱くことでしょう。次第に「ムスリム対応はめんどくさい」という空気が蔓延し,かえって「ムスリムは何様なんだ!」といった反感を招き,ムスリムを遠ざけてしまう風潮が生ずるのではないか(現に生じ始めているのではないか)と強く懸念しています。
このように,「民間ハラール認証」には,
そもそもハラール認証がハラームかという問題はおくとしても,効果の限界や副作用というべきものがあり,
聞きかじりの知識で「ハラール認証ありき」の姿勢で飛び込んでしまうと,痛い目にあってしまいます。民間認証団体の中には,「ハラール認証」の必要性ばかりあおり,効果の限界や副作用については触れずに,高額の料金を取ったり,「ハラール認証」を粗製濫造する団体(当然,認証に対する信用は低いものとなるでしょう)等,いろいろと問題のある団体もあり,顧客(認証を受け,あるいは受けようとする飲食店等)との間で訴訟沙汰になっているケースもあるようですので,十分な注意が必要です。
■「民間ハラール認証」あるいは「ハラール業界(ハラール・ビジネス)」の隆盛
それなら,「民間ハラール認証」は衰退の道を歩き始めているのかといえば,どうも逆で,民間の認証団体は増加の一途をたどり,ある自治体などはハラール認証取得費用を助成する制度を作り,先進的な取り組みとして宣伝しているような状況です。
近い将来,世界の人口の3分の1をムスリムが占めると予測されている今日,その広大な市場の取り込みを図りたいと考える方が増えるのは自然なことです。
これをビジネスチャンスと考えて,「ハラール認証」をうたう民間の認証団体が増えるのもある意味では自然ともいえましょう。
さらに,「ハラール認証」をうたっていなくとも,「ハラール対応」のセミナーやコンサルティングを行う一方で,高額な礼拝室の開発や売り込みなどに関わっているコンサルタントなどもおります。先述のとおり,ハラール対応をビジネスとするあるコンサルタントは,自己の業界を「ハラール業界」などといっており,「ハラール・ビジネス」はまさに一つの「業界」を形成しているといっていいくらいの活況を呈しているようにみえます。
しかし,「ハラール業界」とは,よほど慎重な見極めの上でお付き合いした方がいいと思います。
ハラール業界内部では,「あいつは金儲け主義だ」とか,同業他社の批判が繰り広げられていたりします。
先に触れた,「ハラール対応」のセミナーやコンサルティングを行う一方で,
高額な礼拝室の開発や売り込みなどに関わっているコンサルタントの例をみますと,
「ハラール認証は万能ではない,盲信するな。」といった,本稿とも趣旨を同じくするような,一見もっともなことをおっしゃっておられる一方で,
ムスリム対応のアイテムとして極めて高額な礼拝室の開発等に携わっておられます(しかも,あるムスリムからうかがったところでは,この礼拝室はイスラームの教えからすると問題があるもののようです。)。確かに,このコンサルが批判を受けること自体はやむを得ないと思われます(彼が「ハラール認証」と一歩距離を置いているかのようなスタンスをとっているのも,「ハラール認証」自体に問題があることが理由ではなく,単に彼のビジネス戦略上の問題にすぎないようにみえます。)
ただ,第三者の私(ハラール業界ウォッチャー?)からは,同業者間の批判の応酬は見苦しい内ゲバにしかみえません。
上記礼拝室売りのコンサルに対して金儲け主義批判をしている別のコンサルが,やはり「ハラール認証」は「ハラール対応」の目的ではなく,一手段に過ぎないなどと,
自分自身は一歩引いて中立的であるかのようなスタンスをとっていながら,実はちゃっかりある民間認証団体の役員を兼ねていたり,自治体に認証取得費用の助成金制度を売り込んだりしています。普通の飲食店が,民間認証団体からは独立したコンサルの指導を受けているつもりで,知らないうちに「民間ハラール認証」に誘導され,そこに税金まで投入される,などといったことがあっていいはずがないと思っていますが,果たして現実はどうなっているのか,強い懸念をもっております。
これらの方々を含め,実際に「ハラール業界」で活動しているコンサルには,ムスリムからイスラームあるいはイスラーム圏ビジネスに関する有識者ないし専門家としての信頼を得られたり,
日本の事業者に正確な知識を教えたりする資質も能力もない人が決して少なくはない,というのが実情ではないかと思います。
私も実際にいくつかの「ハラールセミナー」の類を聴講してみたこともありますが,
質問にまともに答えられない(あるいは,知識不足や,商売第一でそのために正確さ等を犠牲にしている姿勢が明らかになるのを避けるためか,あえて答えない)とか,ひどいときには不正確な知識に基づいてイスラーム教を批判することに終始し,一体なんのセミナーなのかわからないなど,極めて残念な思いをすることが多いということは確かです。それでいながら,中には上記のような不健全な商売を行っている人もおり,困ったことに,官庁や経済団体,マスコミ等も彼らを持ち上げることもある,というのが私の現状認識です。
既にみたとおり,ムスリムのハラールは「一つではない」のですし,「民間ハラール認証」がかえってトラブルをもたらし,ムスリムを遠ざける結果となることもあるのですから,コンサルティングはこのようなことを踏まえた上でなされるべきです。
私としては,このようなことを十分にわきまえた上でお客さんの目的に沿って誠実に対応する健全なコンサルタントが増えることを望んでいますが,みなさんがコンサルタントを利用し,あるいは「民間ハラール認証」を利用する場合も,以上にみた「ハラール業界」の実態や,「民間ハラール認証」の効果の限界や副作用を十分に把握し,コンサルタント等の資質を見極めた上で利用すべきだということは強調しておきたいと思います。
ちなみに,わが国政府も「ハラル対応チーム」を設置して,民間認証団体等の実態を把握し,現状では何らの規制も受けていない「ハラール認証ビジネス」に対する統制の必要性等について検討している,と報じられています。消費者等の保護(詐欺的商法,不当表示等から,ムスリム消費者や日本の飲食店等の民間事業者らを守る)といった観点から一定の規制が加えられることは当然に考えられるべきことだと思います。
また,政府や自治体が公的なハラール認証制度を整備すべきではないかという意見が(おそらくはハラール業界に属するコンサル等の入れ知恵を受けて)議員さんらから出てくることもありますが,少なくとも政府は,政府がハラール認証に関与することについては,憲法上のいわゆる政教分離原則との関係を整理する必要があることなどを理由として,消極的な姿勢を示しています。政教分離原則の問題だけでなく,「民間ハラール認証」あるいは「ハラール業界」について以上に縷縷述べたような問題があることに照らすと,賢明な判断であると思われます。
次回は,これまで述べてきたところを踏まえ,「ムスリム対応」にどう臨むべきなのかについて考えてみたいと思います。
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